『財界』誌連載コラム 『英語で夢を見る楽しみ』 寄稿者のブログです。往年のベストセラー『英語屋さん―ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』と『英語屋さんの虎ノ巻』(集英社新書)はKindle (Amazon)などの電子書籍でお読みいただけますので引き続きご愛読のほどお願い申し上げます。2008年7月から10年余りにわたって実務翻訳で見つけた訳語を「なるほど!訳語発見 ~英語翻訳の現場から」と題してこのブログに載せてまいりましたが、思うところがあり2018年8月に改題しました。
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2020年06月27日 (土) | 編集 |
近頃ニュースでよく耳にするカタカナ語のひとつに「ファクトチェック」があります。これを漢語で訳すと「事実確認」(事実検証)となりますが、英語の fact checking と共に政府の発表、公人の発言や報道記事についての(往々にして第三者機関による)それを言う専門用語に由来しているようです。少なくとも私自身に関する限り、カタカナ語の「ファクトチェック」は、自分の確認作業を指して使う言葉ではありません。

(例) fact-checking of Trump's speech(トランプ氏の演説のファクトチェック)

事実を確認(検証)することの一般的な英語表現としては verification of facts あたりが妥当ではないかと思います。

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2020年06月10日 (水) | 編集 |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにソーシャルディスタンシング (social distancing、対人距離の確保; 既出記事参照)や密閉空間における密集、密接な会話や発声(いわゆる三密)の回避が求められるようになり、私たちの日常生活が一変しました。そのような生活行動の変容を日本語で「新たな日常」 (新しい日常)と呼んでいます。

英語では一般に new normal と言いますが、この言葉はリーマンショックや9.11同時多発テロの後にも使われていたようです。その意味では「ニューノーマル」というカタカナ語や「新常態」という漢語に訳されていますが、今日のコロナ禍に関する文脈では一般には言いません。両者をはっきり区別したい場合は後者を post-coronavirus new normal (コロナ後の新たな日常)などと呼ぶといいでしょう。

日本政府の専門家会議が提唱した「新しい生活様式」はその語感の悪さもあって、コロナ後の生活変容を広く指す言葉としては定着していません。多くの文脈においては当局が示した行動指針という限定的な意味でしか使われておらず、「新たな日常」の下位概念に留まっています。東西冷戦時代に育った私などはかつて共産圏の政府が市民の行動を隅々まで監視していたことを思い出すのか、「新しい生活様式」が唐突に発表された時には嫌な印象を受けました。

これもお役所的発想なのか、コロナ対策担当閣僚の記者会見の席でその「新しい生活様式」を「スマートライフ」という珍妙なカタカナ語で言い換えようとしていましたが、すぐに立ち消えました。この言葉はすでにネット家電を導入した新生活を指して使われているので、今さらそれにコロナ後の新たな日常という別の意味を与えるのは不適切だと考えます。

「新たな日常」と呼ぶか「新しい日常」を使うかは個人の好みによって分かれるところでしょう。最近のテレビ報道では後者がやや優勢になり始めたようですが、私の好みで言うと前者のほうがしっくりします。ただし「新たな日常」という言葉は私の場合(コロナ禍に関係なく)個人的な生活感の大きな変化を指す言葉として使ってきたこともあり、それと区別するためにはコロナ後のほうは「新しい日常」と呼ぶのもいいかもしれません。

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2020年05月22日 (金) | 編集 |
新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、店のレジ前の行列や座席で人との距離を最低2メートル空けることが有効な感染対策として強く奨励されるようになりました。英語では social distancing と呼ばれています。その日本語訳は当初、専門用語と思われる「社会的距離[戦略]」という直訳を充てる向きがありましたが、一般には分かりにくいので、「他者との距離を確保すること」と誰にも分かるように意訳したほうがいいでしょう。最近ではより短く「他者との距離確保」「対人距離確保」という訳も見かけます。

カタカナ語では「ソーシャルディスタンシング」 (ソーシャル・ディスタンシング)と書きますが、長過ぎるせいか「ソーシャルディスタンス」という表記を見かけるようになりました。しかし、英語の social distance は人との心理的な距離の意味で使われることがあります。感染予防対策として「物理的な距離を取ること」というそれとは違う意味で distancing という動名詞が使われている以上、両者をきちんと使い分けたほうがいいと思います。いずれにせよカタカナ語にすれば長ったらしいことには違いなく、その類のカタカナ語の濫用を好まない私としては、前掲のやまと言葉を推奨します。

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2020年05月10日 (日) | 編集 |
昨年暮に中国・武漢で露見するやたちまち全世界に拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)が流行している現状を端的に表す「コロナ禍」 (ころなか)という言葉があります(「禍」は「災い」 を意味する漢字)。ツイッターに投稿する際に字数を大幅に省けることもあって私もよく使うようになりました。

この「コロナ禍」を英語で言うなら coronavirus catastrophe (コロナウイルスの惨禍)あたりが適訳でしょうか。「惨禍」を強調せず単にコロナウイルスの流行が拡大している「状況」を指して言うなら coronavirus pandemic (コロナウイルスの広域[世界的]大流行)と訳してもいいでしょう。ネットで検索したところ英語表現では下記のような用例が見られます。

(例) remain closed amid the coronavirus pandemic
   (コロナ渦中で閉鎖されたままだ)
    confront the coronavirus catastrophe (コロナ渦に立ち向かう)
   
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2020年05月03日 (日) | 編集 |
curfew を手元の辞書で引くと「夜間外出禁止令」「門限」などと書いてありますが、英文報道で私が見てきた限りでは、終日のそれも含めて広く「外出禁止令」の意味で使われています。「夜間」または「終日」のそれに意味を限定するには下の例のように形容詞をつけるといいでしょう。

(例) night curfew, dusk-to-dawn curfew
    (夜間外出禁止令)
    24-hour curfew, round-the-clock curfew (終日外出禁止令)

従来の意味の curfew は戒厳令や非常事態宣言に伴って当局が出す命令です。最近の新型コロナウイルス感染拡大対策において欧米諸国の多くで強制力(罰則)を伴う以上はそれも一種の curfew なのでしょうが、語弊を避けるためかこちらは stay-at-home order (自宅待機命令)と呼ぶ向きがあるようです。

戦後の日本では国や地方自治体からこの種の命令が出されることはないので(もちろん私自身も)当局から外出を禁止された実体験がありません。「ステイホーム週間」とか「外出自粛要請」といった穏やかな表現で「自粛」または「協力」を求めるのはいかにもこの国らしいところでしょうが、その反面、強制ではないから遊びに出かけてもいいと思う危機認識に欠ける人が出てくるきらいがあります。

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